矛 盾

変わることは罪という気がしてた
危険を知らせる声が遠のいた
戻りたくないわけではないんだよ
時間に抗うことに疲弊した

湿った空気がきみを撫で下ろす
音の聞こえる感じがよみがえる
雨の日には泳ぎたくなるんだよ
ただきのうの空はもう消えている

その矛盾がいまきみを襲う
ほどいてみろよと声がした
その矛盾はでもやわらかい
目をそむけてきただけだろう

変わることは罪という気がしてた
過ごした日々のぶんだけうまくなる
戻りたくないわけではないんだよ
ただきのうの空はもう消えている

その矛盾がいまきみを襲う
目をそむけてきただけだろう
その矛盾はでもやわらかい
ほどいてみろよと声がした

Sketches


林檎の精

カラスはなぜ黒いのか
疑問形のきみの眉がおかしくて
気がついたら思わず声をかけてた そんな出会い
声が届いたと知ってびっくりした

どこに住んでいるのとか 兄弟とか
きみにたずねられたとき
やはり声はかけるべきではなかった そう悔んだ
ごまかすためにカラスの話をした

起き抜けにメロンパンを買いにいくと
陽気な顔がきみに笑いかけた
きみが疑わしげに見上げるので
名前を言ってごらんと勇気づけた

なぜわたしには名前を聞かないのか
広場を過ぎてきみは不審がった
どうきみに話そうか 話さないか
切なさに似た気持ちが胸を衝いた

あのね わたしにはかたちがない
だれの視界にも映ってない
いつ醒めるものか窺えない
だけど恐れていてもはじまらない だから

遠くに広がる世界 二人で見た
そこにたしかにわたしが暮らしていた

ケチャップをかけるかって聞かれたとき
わたしは食べる側ではないのだからわからないよと答えた
少しだけどほんとうのこと伝えることができた
わたしは食べられる側 その言葉にきみは怒った目をして黙りこんだ

あのね わたしにはかたちがない
だれの視界にも映ってない
いつ醒めるものか窺えない
だけど恐れていてもはじまらない だから


なぜかありえないはずが出会った
その価値はきっと色褪せない
いつ醒めるものか窺えない
だけど恐れていもはじまらない だから

起き抜けにメロンパンを買いにいくと
陽気な顔が和子に笑いかけた
和子が疑わしげに見上げるので
名前を言ってごらんと勇気づけた

なぜわたしには名前を聞かないのか
広場を過ぎて和子が不審がった
どう和子に話そうか 話さないか
切なさに似た気持ちが胸を衝いた

あのね わたしにはかたちがない
だれの視界にも映ってない
いつ醒めるものか窺えない
それを恐れてもはじまらない

遠くに広がる世界 二人で見た
そばで喜べることがうれしかった
和子はいつも名前で呼んでくれた
そこにたしかにわたしが暮らしていた

ありえないはずが出会えたこと
その価値はきっと色褪せない
いつ醒めるものか窺えない
それを恐れてもはじまらない