どんなにいいだろう

肩を並べて試合を見てた
ふと振り仰ぐときみが見えた
前をじっと見て通り過ぎた

斜めからのきみの顔を
ぼくはたくさん知ってる
きょうはどんな夢を見たの

きみが見つめてくれたら
どんなにいいだろう
どんなにいいだろう

雲を背にふるえる黒い枝
くるくる落ち葉舞う長い坂
ぼくの後ろをきみは眺めた

斜めからのきみの顔を
ぼくはたくさん知ってる
きょうはどんな夢を見たの

きみが見つめてくれたら
どんなにいいだろう
どんなにいいだろう
どんなにいいだろう

Sketches


血の耳

気配を察したものか、男は上擦った眼で振り返った。遅かった。もう光は男の面前にまで迫っていた。驚いた男は左右に手を開き、仰け反った。光は床版を踏んで体を矯めると、畳んだ肘を戻す所作で、男の首をめがけ、鎖骨から下顎にかけて立てた爪を揮った。噴き出した蘇芳色の血が四、五の、耳のような形状に蝟集し、縁をくるくると揺らめかせながら散った

殺すなんてこといやだ

死んでしまうのはいやだ

膝から砕けた男の腹に光は手をつっこんだ。摑んだ腸は男の体が沈みぐたぐたと膝をつくにつれ引き出された。手を振り上げると腸は千切れ、光の背後に落ち、血を飛び散らせた。腸自体が四方に罅ぜたのかもしれなかった。支えを失い床版に崩れ落ちた男の鼻と口から赤い液体がつるつると流れ出た

光は男を抱え起こすと、右のこめかみから、左のこめかみにかけて、頭蓋に沿って爪で半円を刻んだ。切れ目の縁に両親指の付け根を圧しあて、それぞれ額側と後頭部側に引いて頭皮を剥いた。露出した頭骨を床版に打ちつけた。男に悪意などなかった、と知って気持は浮き立った。早くそれを確かめたかった。頭骨に生じた割れ目に指をかけ、めりと引きはがした。薄桃色の脳を見た。記憶をつかさどる部位はどこかと思案した

殺すなんてこといやだ

死んでしまうのはいやだ